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安全在庫とは?計算式と安全係数の求め方をEC実務で解説

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安全在庫とは、需要の変動やリードタイムの遅れによる欠品を防ぐために、最低限確保しておく在庫量のことです。

安全在庫は勘で決める数字ではなく、計算式で求められます。必要なのは「安全係数」「使用量の標準偏差」「発注リードタイムと発注間隔」の3つで、いずれも自社の販売実績と仕入れの記録から取れます。

複数のネットショップを運営している場合は、もう1つ決めることがあります。在庫を全店舗で1つにまとめて計算するか、店舗ごとに分けて計算するかです。この選択で、同じ欠品率を守るために必要な在庫の合計が変わります。本記事では計算式と安全係数の求め方を整理し、Excelで使える計算シートの形に落としたうえで、複数モール運用での考え方まで扱います。

安全在庫とは?欠品を防ぐために最低限確保する在庫量

安全在庫とは、需要の変動やリードタイムの遅れによる欠品を防ぐために、最低限確保しておく在庫量のことです。平均どおりに売れて、予定どおりに入荷するなら安全在庫は要りません。現実にはどちらもぶれるため、そのぶれを吸收する余裕分として持ちます。

安全在庫が必要になる要因は3つです。

要因内容安全在庫への影響
需要の変動日によって販売数がばらつく。セールや広告、季節で振れ幅が変わるばらつきが大きいほど多く必要
リードタイムの変動発注から納品までの日数が、仕入先の都合や物流の混雑で延びる待つ期間が長いほど多く必要
欠品の許容度欠品をどこまで許すか。定番品は許しにくく、季節品は多少許せる許容度が低いほど多く必要

用語の位置づけとして、JIS Z 8141:2001(生産管理用語)は用語番号1234で「在庫」を定義し、その備考で必要理由に応じた呼称としてロットサイズ在庫・安全在庫・見越在庫を挙げています[1]。安全在庫は、在庫のうち「ぶれに備える」目的で持つ部分を指す言葉です。

なお、本記事で扱う「安全係数」は在庫管理で使う係数です。材料や構造物の強度で使う安全係数(安全率)とは別の概念なので、検索で混同しないよう先に区別しておきます。

安全在庫の計算式と3つの構成要素

安全在庫は、一般的に用いられる計算式では次のように求めます。

安全在庫 = 安全係数 × 使用量の標準偏差 × √(発注リードタイム + 発注間隔)

3つの構成要素を順に見ていきます。

安全係数は「欠品をどこまで許容するか」で決まる

安全係数とは、欠品許容率(発注から次の入荷までの期間に欠品が起きる確率をどこまで許すか)から決める係数です。販売数のばらつきが正規分布に従うと仮定し、標準正規分布の上側確率が欠品許容率と一致する点の値を使います[3]。

欠品許容率安全係数(厳密値)実務で使われる値
1%2.32632.33
2%2.05372.06
5%1.64491.65
10%1.28161.29
20%0.84160.85

「実務で使われる値」は厳密値を小数第2位で四捨五入したものです。安全在庫は最後に個数へ切り上げるため、どちらを使っても結果はほとんど変わりません(後の計算例で確かめます)。

欠品許容率の決め方は商品の性格で変わります。欠品による機会損失を避けたい定番品は許容率を低く、売れ残りのリスクを重視する季節商品や流行品は許容率を高く設定する、という考え方で使い分けます。

エクセル(Excel)では、欠品許容率をセルに入れて =NORM.S.INV(1-欠品許容率) とすれば安全係数が出ます。古いバージョンの NORMSINV でも同じ結果です。

使用量の標準偏差は過去の出荷実績から求める

標準偏差は、1日あたりの販売数(使用量)が平均からどれだけ散らばっているかを表す値です。日別の販売数を並べ、Excelの STDEV.S で求めます。

集計のときに気をつける点は2つです。

  • 売れなかった日を0として残す。0の日を除くと、ばらつきが実際より小さく出て安全在庫が不足します。
  • 複数の店舗で売っている商品は、全店舗の販売数を日別に合算してから標準偏差を取る。店舗ごとに取るか合算で取るかで結果が変わります(後の章で扱います)。

集計期間は、季節性がある商品なら直近1シーズン分、定番品なら直近数か月分を目安にし、セール期間だけが混ざらないようにします。

リードタイムと発注間隔の考え方

発注リードタイムは、JIS Z 8141:2001 用語番号1206で「発注してから納入されるまでの時間。調達時間ともいう」と定義されています[2]。仕入先への発注日と実際の入荷日の差を、直近の実績から取ります。

発注間隔は、発注から次の発注までの日数です。週1回なら7日、10日に1回なら10日です。式の中で発注リードタイムと発注間隔を足しているのは、「発注した瞬間から、次の発注分が届くまで」が在庫でしのぐべき期間だからです。

安全在庫の計算例(数値で追う)

以下はすべて説明用に設定した数値です。

前提:商品Yを楽天市場・Yahoo!ショッピング・自社サイトの3店舗で販売。3店舗合計の1日平均販売数は9個、日次販売数の標準偏差は3.5個。発注リードタイム4日、発注間隔10日(10日に1回発注)。√(4 + 10) = √14 = 3.742。

欠品許容率安全係数計算安全在庫(切り上げ)
1%2.332.33 × 3.5 × 3.742 = 30.531個
5%1.651.65 × 3.5 × 3.742 = 21.622個
10%1.291.29 × 3.5 × 3.742 = 16.917個

欠品許容率を1%から10%へ緩めると、常時持つ安全在庫は31個から17個と14個減ります。逆に言えば、欠品を100回に1回まで抑えたい商品は、10回に1回を許せる商品より約1.8倍の安全在庫が要ります。

厳密値で計算しても結果は変わりません。5%の厳密値1.6449を使うと 1.6449 × 3.5 × 3.742 = 21.5 で、切り上げれば同じ22個です。実務で1.65を使って問題ない理由はここにあります。

安全在庫が決まれば、発注点(この在庫数まで減ったら発注する目安)も出せます。発注点 = 1日平均販売数 × 発注リードタイム + 安全在庫 = 9 × 4 + 22 = 58個です。在庫が58個を割ったら発注し、4日後の入荷までに平均36個売れて、入荷直前に22個前後が残る設計になります。

安全在庫の計算シート(Excelで使える形)

自社の数字で計算するには、次の6行を1枚のシートに置けば足ります。B列に入力し、C列の数式をそのまま貼り付けてください。

行A列(項目)B列(入力・結果)数式・入れ方
1日別販売数の範囲(別シートに日付と販売数を並べる)全店舗を日別に合算した列
2使用量の標準偏差3.5=STDEV.S(販売数の範囲)
3欠品許容率0.055%なら 0.05 と入力
4安全係数1.6449=NORM.S.INV(1-B3)
5発注リードタイム+発注間隔(日)14実績日数を足して入力
6安全在庫22=ROUNDUP(B4*B2*SQRT(B5),0)

B2〜B5に前の章の数値を入れると、B6は22個になります。欠品許容率(B3)を変えるだけで安全在庫が再計算されるので、商品ごとに許容率を振り分ける検討に使えます。

このシートで扱えるのは1商品ずつです。SKUが数百を超える場合は、日別販売数の表をSKU×日付の形にし、STDEV.S を行ごとにコピーする構成にすると一括で計算できます。複数店舗の販売数を毎回合算する手間が残る点は、後の章で触れます。

適正在庫・発注点との違い

安全在庫・適正在庫・発注点は、同じ在庫の数直線上で役割が違います。

用語役割位置
安全在庫ぶれに備えて最低限持つ量下限
適正在庫欠品と過剰在庫の両方を抑えられる量の範囲下限(安全在庫)から上限(安全在庫+次の入荷までの販売分)までの範囲
発注点この在庫数まで減ったら発注する目安範囲の中のタイミング

安全在庫は適正在庫の下限を決める部品で、発注点は安全在庫に「リードタイム中の販売分」を足したものです。適正在庫の範囲の考え方と計算例は「適正在庫とは」で、発注点の設定方法は「発注点の決め方」でそれぞれ扱っています。

なお「有効在庫」は、実在庫から受注済みで未出荷の分を引いた、いま販売に使える在庫数を指します。安全在庫と比べる対象はこの有効在庫です。実在庫で比べると、既に売れている分を二重に数えます。

複数モール運用のECで安全在庫を設計する

複数の店舗で同じ商品を売っている場合、安全在庫の計算は「全店舗の在庫を1つにまとめて計算する」か「店舗ごとに計算する」かで結果が変わります。結論から言えば、在庫を1つにまとめるほうが合計の安全在庫は小さくなります。これは「EC一元管理システムとは」で扱う一元管理の前提でもあります。

店舗ごとに持つと安全在庫が積み上がる

前の章の商品Yを、3店舗それぞれで在庫を分けて持つ場合を考えます。店舗ごとに日別販売数の標準偏差を測り直す必要があり、ここでは説明用に楽天市場2.5個・Yahoo!ショッピング1.8個・自社サイト1.2個と設定します(合計5.5個。全店合算の3.5個より大きいのは、店舗ごとに測ると各店のばらつきが打ち消し合わないためですが、この差の大きさは商品と店舗の売れ方で変わります)。

店舗標準偏差計算(5%・1.65・√14)安全在庫
楽天市場2.51.65 × 2.5 × 3.742 = 15.416個
Yahoo!ショッピング1.81.65 × 1.8 × 3.742 = 11.112個
自社サイト1.21.65 × 1.2 × 3.742 = 7.48個
店舗別の合計——36個
全店舗を1つにまとめた場合3.51.65 × 3.5 × 3.742 = 21.622個

同じ欠品許容率5%を守るのに、店舗別に持つと36個、まとめた場合は22個です。店舗別に持つ運用では、さらに「楽天市場では売り切れ、自社サイトには残っている」という状態も起きます。合計では足りているのに、店舗単位では欠品と過剰が同時に発生している状態です。

在庫を1つにまとめるには「反映の速さ」が前提になる

在庫を1つにまとめて全店舗に同じ在庫数を出すには、どの店舗で売れても在庫を減らし、残りをすべての店舗に反映する仕組みが要ります。手作業で各店舗の管理画面を更新している間は、その時間差のぶんだけ実質的なリードタイムが延び、売り越しの余地になります。

株式会社鶴月・社中は導入前の作業について「導入前の在庫数を変更したいときは、複数のネットショップそれぞれの管理画面に入っての作業が必要だったので1商品あたり最低5分以上の時間が掛かり」と述べています。この時間が店舗数とSKU数の掛け算で積み上がるのが、店舗別運用の実態です。

TEMPOSTARの在庫管理機能では、各店舗の受注メールから販売個数を取得してTEMPOSTAR上の在庫を更新し、他の店舗へ5分〜10分間隔で反映します。楽天在庫API・Yahoo!在庫APIに対応した店舗ではリアルタイム〜5分間隔まで短縮でき、在庫更新までの時間差による売り越しをより減らせます[4]。約5,000点を扱う株式会社グリーンハウスは、選定理由として「TEMPOSTARの『5分~10分間隔で在庫数を全店舗に反映できる』という在庫API連携のスピード感はとても魅力的でした。」と述べています。

反映が分単位であれば、計算式のリードタイムに反映の遅れを上乗せする必要は実務上ありません。数時間から翌日単位で手作業更新している場合は、その遅れを発注リードタイムに加えて計算してください。

計算した安全在庫を通知の基準にする

安全在庫を計算しても、在庫数を毎日目で追い続けるのは続きません。TEMPOSTARには「通知在庫数」を設定すると「在庫切れ通知メール」が届く機能があり、公式サイトでは発注のタイミングを可視化できると案内されています[4]。通知在庫数を発注点(前の例では58個)に合わせておけば、計算結果を日々の運用に組み込めます。

安全在庫を設定するときの注意点

計算式は便利ですが、そのまま運用すると次の5点でつまずきます。

  1. 欠品はゼロにならない。欠品許容率5%は「20回の発注サイクルで1回は欠品しうる」という意味です。ゼロを目指すと安全係数が際限なく大きくなり、在庫が膨らみます。
  2. 安全在庫だけでは余剰在庫は防げない。安全在庫は下限を決める数字です。上限を決めるのは適正在庫で、両方そろって初めて範囲になります。
  3. 需要の変動が大きすぎる商品には向かない。新商品、話題性で売れる商品、シーズン末の商品は過去の標準偏差が将来を表しません。こうした商品は別の管理(少量発注・予約販売など)を検討します。
  4. リードタイムは変動する。計算に使うのは平均ではなく、直近の実績のうち長めの値を採るほうが安全側です。仕入先ごとにリードタイムが違う場合は商品ごとに計算します。
  5. 計算は一度きりにしない。セール、季節、広告出稿で標準偏差は変わります。少なくとも季節が変わるごとに、直近の販売実績で更新してください。

安全在庫の設定が結果として適切だったかは、在庫回転率と欠品の発生回数で事後に確かめられます。在庫回転率の見方は「在庫回転率の計算」、欠品が起きたときの実務は「欠品とは」を参照してください。

よくある質問

Q1. 安全在庫とは何ですか?

安全在庫とは、需要の変動やリードタイムの遅れによる欠品を防ぐために、最低限確保しておく在庫量のことです。平均どおりに売れて予定どおりに入荷するなら不要ですが、現実にはどちらもぶれるため、そのぶれを吸收する余裕分として持ちます。適正在庫の下限にあたります。

Q2. 安全在庫の計算式は何ですか?

一般的に用いられる計算式は、安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×√(発注リードタイム+発注間隔)です。安全係数は欠品許容率から決め、5%なら1.65、10%なら1.29を使います。標準偏差は日別販売数から STDEV.S で求めます。

Q3. 安全在庫と適正在庫の違いは何ですか?

安全在庫は「これ以上減らしてはいけない下限」の1つの数字で、適正在庫は「下限から上限までの範囲」です。適正在庫の上限は、安全在庫に次の入荷までの販売分を足した量になります。安全在庫は適正在庫を組み立てる部品の1つと考えると区別しやすくなります。

Q4. 安全在庫を持っているのに欠品するのはなぜですか?

原因は主に3つです。標準偏差を集計するときに売れなかった日を除いていてばらつきを小さく見積もっている、リードタイムに平均値を使っていて遅延を吸收できていない、複数店舗の在庫を店舗ごとに分けていて合計では足りているのに特定の店舗で切れている、のいずれかです。計算の前提を直近の実績で見直し、店舗の在庫を1つにまとめることで多くは解消します。

まとめ

安全在庫は、安全係数 × 使用量の標準偏差 × √(発注リードタイム + 発注間隔)で求めます。必要なのは自社の日別販売数と仕入れの実績だけで、Excelの STDEV.S と NORM.S.INV があれば1商品あたり数分で計算できます。まず売上上位のSKUを1つ選び、欠品許容率を1%・5%・10%で変えて安全在庫がどう動くかを確かめるところから始めてください。

複数店舗を運営している場合は、店舗ごとに在庫を分けるより、全店舗の在庫を1つにまとめて計算・反映するほうが合計の安全在庫を小さくできます。在庫を1つにまとめて全店舗に反映する仕組みは「在庫管理機能」のページで確認できます。複数店舗の受注・在庫・商品を一元管理する全体像は、TEMPOSTARのサービス資料にまとめています。